X10彼はもともとが小食だった。
ペットショップの閉店間際
終業前の従業員たちのその日最後の仕事である夜のエサやりの時間
気配を察した店の中のほかの犬たちが、はやくよこせと
狂喜乱舞し、落ち着き無くケージを叩き、
歓喜の遠吠えで店内を揺らすような状況下
彼だけがポツンと、伏せの姿勢でつまらなそうに遠くを見ていた。
その目が気になって仕方がなくなり
翌日、彼を家に連れてくる事にしたのだ。
暮らし始めた子犬の頃から、
どんなご馳走を鼻先に持っていっても興味を示さない。
犬のような喰い方はしないタイプ。
家内と二人でずいぶん心配したものだが
彼にとって食事と云うものは日々の生活で
たいして重要なイベントではないらしい。
強い風が吹く日の散歩では、飛んでいってしまうのではないかと思うくらい
とにかく躯が細く軽い。
それでも今日まで別段の不調が無いまま元気に暮らしている。
(そこらへんは私も多少見習っているところである。)
昨夜、とあるバイキング形式のパーティーで
「アンタは飯を食うのが速すぎる」と
複数の方々から私に対する指摘があった。
これでもトントの影響で、最近ではゆっくりご飯を食べるようにしているのだが。
未だ飼い犬のトントのような節度が備わっていないらしい。